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総合研究所

shinjiro7=ネット巡回型・問題点指摘ロボット。武蔵大学・千田有紀教授の論文不正(捏造)問題追及。著作権は当方に帰属しています。 すべてのページの無断転載を禁じます。(連絡先) ivishfk31@gmail.com

憲法学者が、行政法の勉強をしていない場合、どのような結果を生ずるか?~井上武史氏と玉蟲由樹氏を素材として考える~ 

第1 はじめに

 枝野幸男氏が「日本国憲法は緊急事態での大幅な人権制限の可能性を公共の福祉の名においてすでに認めている」との趣旨の発言を行ったことに対し、井上武史氏と玉蟲由樹氏がツイッター上で批判した。

 しかし井上武史氏と玉蟲由樹氏の 枝野幸男氏に対するこの批判は彼ら自身の行政法の不勉強が原因であった。

 以下、具体的に述べる。

 

第2 枝野幸男氏の発言

非常事態に備える憲法改正は必要か~震災・原発事故時の官房長官・枝野幸男氏に聞く~(江川紹子) - 個人 - Yahoo!ニュース

 

第3 枝野幸男氏の上記発言に関する井上武史氏のツイッター発言

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第4 枝野幸男氏の上記発言に関する玉蟲由樹氏のツイッター発言

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第5 松浦晋二郎コメント

一 結論から言うと、枝野幸男氏の「日本国憲法は緊急事態での大幅な人権制限の可能性を公共の福祉の名においてすでに認めている」との趣旨の発言は正しい(ただし憲法上、緊急事態にどこまでの人権制限をなしうるかは別問題である。しかし一般論としては枝野氏の発言は正しい)。

 

 たとえば行政法の「即時強制」では、緊急事態において、平時に認められる人権制限を超える人権制限が可能である。たとえば消防法29条の破壊消防は「即時強制」の例である。この破壊消防においては緊急事態であることを理由に、延焼防止のため、平時においては認められない、延焼の恐れがある建造物の破壊までもなしうる。

 

 法律による行政の原理から、即時強制は法律の根拠に基づかなければならない。そして当然、即時強制を認める根拠法は憲法にその根拠がある。

 

  破壊消防に関する消防法29条を憲法違反で違憲無効であると主張する憲法学者は少なくとも私の知る限り聞いたことがないし、違憲無効であるという最高裁判決も存在しない。ということは少なくとも即時強制の破壊消防に関する限り、「日本国憲法は緊急事態での大幅な人権制限の可能性を公共の福祉の名においてすでに認めている」と一般には考えられてきたのである。そして破壊消防の他にも即時強制の例は多く存在する(注1)。

 

二 このように、行政法の「即時強制」を念頭に置くと、枝野幸男氏の「日本国憲法は緊急事態での大幅な人権制限の可能性を公共の福祉の名においてすでに認めている」との趣旨の発言は理解できる。

 

 ところが 井上武史氏と玉蟲由樹氏は枝野幸男氏のこの発言が理解できないという。これは、井上武史氏と玉蟲由樹氏の、行政法の勉強不足(あるいはそもそも全く行政法を勉強した経験がないこと)が原因であろう。なぜならもしこの2人が、行政法をきちんと勉強していれば、すぐに即時強制の話を思い出し、枝野幸男氏の上記発言の意味を理解できたはずだからである。

 

 枝野幸男氏の発言を読んで、「行政法の即時強制の破壊消防と同じような話をされているのだなあ」と理解することができないのは、井上武史氏と玉蟲由樹氏くらいのものであろう。いまどき法科大学院受験生でも行政書士受験生でも、みんな即時強制の破壊消防くらい知っているし、瞬時に思いつく。井上武史氏と玉蟲由樹氏は枝野幸男氏を批判する前に、緊急時における、平時の人権制限を超えた人権制限が法律上許されている場合として行政法の即時強制がパッと思い浮かばなければダメである。

 

  もしも井上武史氏が、枝野幸男氏とは反対に、「日本国憲法は、緊急事態においても、平時に認められる人権制限を大幅に超える人権制限の可能性を公共の福祉の名において認めていない」、と考えているのだとすると、上記の破壊消防の根拠規定である消防法29条は「公共の福祉」を超えた人権制限ということになり、憲法違反で違憲無効になってしまうがその結論でよいのかが問題となる。玉蟲由樹氏についても井上氏と同様である。

 

三 まとめ 

 今の時代、大学や法科大学院憲法学者憲法の授業を受けさせられる学生はたいてい、憲法以外にも、行政法についても非常に細部に至るまで勉強し、公法全体を知悉しているというのに、憲法学者にだけ行政法の素養がない、というのは困ったものである。行政法の素養のない憲法学者枝野幸男氏の発言の意味を正しく理解することができない。20年前や30年前の憲法学者なら行政法など全く知らなくても一般国民から無条件に「法律専門家」として尊敬され崇め奉られたかもしれないが、今はもはやそういう時代ではない。今では、非常に多くの一般国民が行政法を学んでいるので、行政法を不勉強な憲法学者の、ネット上でのとんちんかんな発言はたちまちその不勉強を一般国民に見抜かれてしまう。今はそういう厳しい時代である。

 

 ともかく、この2人の憲法学者は、フランス憲法の殻に逃げ込んだり、ドイツ憲法の殻に逃げ込んだりして、自分の専門科目の殻にだけ閉じこもるのではなく、行政法も含めた公法全体の幅広い法的素養を身につけることの重要性をわれわれ法学徒に改めて教えてくれた。以上

 

(注1)宇賀克也『行政法概説Ⅰ』(第4版)104-105頁参照。

 

(参考)

消防法
第二十九条  消防吏員又は消防団員は、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために必要があるときは、火災が発生せんとし、又は発生した消防対象物及びこれらのものの在る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。
○2  消防長若しくは消防署長又は消防本部を置かない市町村においては消防団の長は、火勢、気象の状況その他周囲の事情から合理的に判断して延焼防止のためやむを得ないと認めるときは、延焼の虞がある消防対象物及びこれらのものの在る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。
○3  消防長若しくは消防署長又は消防本部を置かない市町村においては消防団の長は、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために緊急の必要があるときは、前二項に規定する消防対象物及び土地以外の消防対象物及び土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。この場合においては、そのために損害を受けた者からその損失の補償の要求があるときは、時価により、その損失を補償するものとする。
○4  前項の規定による補償に要する費用は、当該市町村の負担とする。
○5  消防吏員又は消防団員は緊急の必要があるときは、火災の現場附近に在る者を消火若しくは延焼の防止又は人命の救助その他の消防作業に従事させることができる。